読書感想302 通訳ダニエル・シュタイン

著者 : リュドミラ・ウリツカヤ
生年 : 1943年
出身国 : ロシア
出版年 : 2006年
本作での受賞 : 2007年 ポリシャヤ・クニーガ賞、2008年アレクサンドル・メーニ賞
邦訳出版社 : (株)新潮社
訳者 : 前田和泉
☆☆☆感想☆☆
実在したブラザー・ダニエルのことを描いた小説である。著者はノンフィクションにしようかと考えていたこともあったが小説として実在しない人物や会話、情景などで膨らませてフィクションとしたそうである。しかし、訳者の後書きによればエピソードの多くは実話だという。ブラザー・ダニエルはナチス・ドイツがポーランドに侵攻したときにユダヤ人の両親を失い、弟はイスラエルに逃れ、ダニエルは完璧なドイツ語を話すことから、ユダヤ人とは思われずにゲシュタポに通訳として雇われた。そこでゲットーに収容されているユダヤ人を集団脱走させた。300人のユダヤ人は逃れベラルーシの森の中でパルチザンとしてひっそり戦争が終わるまでかくれていた。ダニエルはその後修道女たちにかくまわれ、そこでカトリックに改宗した。戦後はイスラエルに行くことにしたが、ユダヤ人であってもユダヤ教徒ではないので国籍が与えられず、やっと帰化者として国籍を与えられた。イスラエルではカトリックの修道士として観光ガイドとして働いた。
ダニエルは明らかにカトリックの教義から逸脱していく。カトリックの三位一体の教義を否定していく。父と子と聖霊は一体の神と見る教義。イエスはユダヤ教のラビであり、キリスト教はユダヤ教のプロテスタントだと考える。ポーランド出身の旧知のローマ教皇ヨハネ・パウロ2世がダニエルを不問の付し、ユダヤ教との和解に動き出す。
ここではダニエルのことだけではなく、ベラルーシの森に逃げて生き延びた人たち、特に医者夫婦や女性コミュニスト、彼女が生んだ赤ん坊のことが手紙やインタビューで綴られていく。いろいろな人生が折り重なって展開していく。
ロシア正教会のユダヤ人神父も出てくる。
イスラエルにはいろいろなキリスト教会が存在することに驚かされた。そしてアラブ人のキリスト教徒もかなり存在する。そして旧約聖書の世界がそのままあるのがイスラエルなのだ。
第二次世界大戦中のことだけでも十分に興味深いのにイスラエルへ行ってからも波瀾万丈だ。エルサレムに100年続いたヤコブの原始キリスト教会の再興を夢見たブラザー・ダニエル、キリスト教もユダヤ教もイスラムも神は同じ、一つと考えたダニエルはホロコーストを引き起こした原因と解決を求め続けたということであろう。
たやすくは読めなかったが、読んでよかった。
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